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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5295号 判決 1977年6月30日

原告

屋代浩

被告

河村由美子

主文

一  被告は原告に対し金六四九万八六二七円およびこれに対する昭和五〇年七月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告は原告に対し金二八六二万二九八四円およびこれに対する昭和五〇年七月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

(一)  日時 昭和四八年一一月二九日午後六時頃

(二)  場所 東京都港区赤坂三―一―一〇先交差点

(三)  加害者 普通乗用自動車(品川五六す八五七一)

右運転者 河村三千雄

(四)  被害者 原告

(五)  態様 前記交差点を横断歩行中の原告に左折中の加害者が衝突したもの。

二  責任

被告は加害車を所有しこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告は本件事故により左膝外側半月板損傷の傷害を受け、救急車で前田外科病院に運ばれて手当を受け、その後同病院に通院して治療を受けていたが、損傷の程度が重かつたので昭和四九年二月一八日から同年三月二一日まで三一日間虎の門病院に入院して手術を受け、さらに、同年五月二一日から同年六月四日まで一五日間同病院に入院して第二回目の手術を受け、その後も約一年五か月にわたつて同病院に通院しているが、左膝関節痛および同関節の屈伸障害を後遺し、体重負荷によつて左膝に痛みが出て歩行が非常に苦痛で杖の使用が必要であり、手荷物すら持つて歩けない状態が続いており、右後遺障害は自賠法施行令別表第一二級に該当する。

右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(一)  自家用操縦士技能免許が使用不能になつたことによる損害 一五八万七六〇〇円

原告は飛行機の自家用操縦士技能免許を有するが、前記後遺障害のために飛行機を操縦することが全く不能となり、右免許の取得が無意味なものとなつた。ところで、原告は右免許を取得するために昭和四一年七月から同四四年八月までの間に単発機エアロコマンダー一〇〇に合計一二六時間搭乗したが、右単発機での飛行訓練料金は一時間一万二六〇〇円であるから、右免許の取得に要した費用は一五八万七六〇〇円であり、原告は本件受傷により同額の損害を蒙つたことになる。

(二)  通勤上余儀なくされた損害 八九四万九七八〇円

原告は本件事故当時、立川市柴崎町四―一四―二〇所在の原告の妻の実家の二階に居住して勤務先である港区赤坂二―四―五所在の日商岩井株式会社本社に通勤していたが、前記受傷のために長時間のラツシユ時の通勤が著しく困難となつたので昭和四九年一一月末日、原告肩書地所在の日商岩井マンシヨン四一八号をローンを含め一四七五万円で購入し転居することを余儀なくされた。そして、原告は右ローンの返済として年間約一四〇万円を支払つているが、このうち少くとも右マンシヨン(三DK)の賃借料相当額である四万五〇〇〇円から妻の実家に支払つていた家賃一万円を差し引いた額に相当する三万五〇〇〇円は前記受傷のために通勤上余儀なくされた損害であり、原告は余命期間である三九年にわたつた右損害を受け続けることになるので、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右損害の現価を計算すると八九四万九七八〇円となる。

(三)  後遺障害による逸失利益 一一三七万五六〇四円

原告の前記日商岩井株式会社における昭和四九年度の給与所得は四二三万五七四六円であつたところ、原告は前記後遺障害のために労働能力の一四パーセントを喪失した。ところで、原告の年齢は三四歳で、就労可能年数は三三年であるから、右収入を基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して原告の後遺障害による逸失利益の現価を計算すると一一三七万五六〇四円となる。

(四)  慰藉料 三四一万円

原告は前記後遺障害のため、会社勤務においては同僚社員と同等の仕事の分担ができず通勤もラツシユ時を避けなければならない状態が続いており、家庭にあつては子供を膝の上に抱くこともできず、父親としての精神的苦痛は言語に絶するものがある。よつて後遺障害による慰藉料として一五六万円、入通院に対する慰藉料として一八五万円が相当である。

(五)  弁護士費用 三三〇万円

原告は本訴を原告訴訟代理人らに委任し、着手金として八〇万円を支払い、報酬として二五〇万円の支払を約した。

四  結び

よつて、原告は被告に対し二八六二万二九八四円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年七月一〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の認否および抗弁

一  認否

(一)  請求原因第一、二項は認める。

(二)  請求原因第三項のうち、弁護士費用約定の事実は不知、その余は否認する。

二  抗弁

(一)  加害車運転者である河村三千雄は、本件事故現場の交差点手前で一時停止し横断歩行者の人波がとぎれたため時速二ないし三キロメートルの速度で左折進行したが、その直前を早足で横断歩行してきた原告の発見が遅れたため、急制動の措置をとつたが自車を停止させる直前に自車左前部を原告に衝突させたものであり、他方、原告も加害車の動静に注意を払わずにその直前を早足で横断し、衝突するまで加害車に気づいておらず、原告の安全確認不履行、横断不適当の過失も本件事故発生の一因をなしているので、過失相殺の主張をする。

(二)  被告は原告に対し、治療費として一九万七二一五円、休業補償費として三三万一七三七円、その他の損害金として五万三〇〇〇円、合計五八万一九五二円の一部弁済をしており、そのほかに原告は自賠責保険から後遺障害に対する補償として五二万円を受領している。

第四抗弁に対する原告の認否

一  抗弁(一)は否認する。

二  抗弁(二)のうち、被告主張の金員を受領したことは認めるが、自賠責保険の後遺障害補償五二万円以外は本訴請求外の損害に対する弁済としてなされたものであるから、本訴請求の損害に充当されるべきではない。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生および責任原因

請求原因第一、二項は当事者間に争いがない。

二  損害

(一)  成立に争いのない甲第二ないし五号証、同第八、九号証、同第一〇号証の一、二、乙第五号証、証人尾代真千子、同浜名久仁子の各証言、証人兼鑑定人広瀬和彦の尋問結果および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故のために左膝部を打撲し、事故当日は現場近くの前田外科病院で左膝部打撲症との診断のもとに治療を受け、その後は自宅(当時立川市柴崎町四―一四―二〇)近くの整形外科医院で診察・治療を受けていたが、経過が思わしくなかつたので、昭和四九年一月二五日に虎の門病院で診察を受けたところ、左膝外側半月板損傷で手術を要する旨診断され、同年二月一八日から同年三月二一日まで三一日間同病院に入院して損傷した半月板の切除等の手術を受け、さらに、同年五月二一日から同年六月四日まで一五日間同病院に入院して左膝関節に生じた水腫の洗浄等の手術を受けたが、左膝関節痛は治癒するに至らず、現在でも五〇〇ないし六〇〇メートル程度歩くと左膝に痛みが生じ、立位や歩行による体重負荷が長時間続くと右の痛みは持続的なものとなり、左膝に腫れが生ずることもあるので、通勤時には杖を使用し、日常生活でも仕事の上でもできるだけ荷物を持たないようにするなどして左膝に負担をかけないようにしているが、週末になると左膝に対する負担が重なつて疼痛が強くなりその頻度も多くなるという状態が続いていること、損傷した半月板を切除した場合、本来の組織である軟骨の半月板は再生しないけれども繊維質の半月板様のものが再生して日常生活に障害が残らない程度に回復するのが一般であるが、一〇パーセント程度はかなり長期にわたつて疼痛等の愁訴が残る例があるので、原告の症状も右の例に属するものと考えられ、これに対する効果的な治療方法は見当らないので、現在治療の見込は立つておらず、歩行を続けている限り相当長期間現在の症状が継続するものと考えられること、原告は第二回手術以降も引続き二週間に一回程度虎の門病院に通院しており、当初は種々の投薬治療を受けていたが、現在は大腿四頭筋強化訓練によつて症状が軽快する可能性があるということで医師の指導により右訓練を自ら行つているだけであり(現在、その効果は現れていない。)通院時も医師に右訓練の結果を見てもらう程度で痛み止めのための注射、投薬も受けてはいないこと、原告は右通院時、現在でも歩いたあとで左膝に腫脹が生ずる旨訴えているが、医師の所見では第二回の手術時前後に認められたような腫脹は昭和五一年六月現在では見受けられなくなつていること、および、原告の右後遺障害については自賠責保険の査定において自賠法施行令別表一二級一二号に該当するものとされていることの各事実が認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は他の証拠に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、以上の事実を前提に以下損害の数額について判断する。

(一)  操縦士技能免許が使用不能になつたことによる損害について、

成立に争いのない甲第一一号証、原告本人尋問の結果によつて成立を認めうる甲第七号証の一ないし一〇および同尋問結果によれば、原告は将来ブラジルで農場を経営したいという希望をもつていたので、それに役立たせようという考えもあつて昭和四一年七月頃から飛行機操縦士免許の取得のための訓練を受け、昭和四四年一〇月八日付で単発機の自家用操縦士免許を取得しているところ、右免許は永久免許であるが、前認定の後遺障害のため現在飛行機の操縦は不可能であることが認められる。しかしながら、右免許は、その取得に多額の費用を要するとしても、それ自体に財産的価値があるのではなく、免許の取得はこれを使用して自己の労働の質を高めより多くの所得を得る可能性が開けたということにすぎず、この点は各種の職業上の資格、技能と異る点はないので、事故のために右免許の使用が不可能になつたとしても、これを独立の損害として評価しうるものではなく、慰藉料および労働能力喪失による損害を評価する際の事情となるにすぎないと解するのが相当である。

よつて右免許の使用不能による損害は認められないが、後記慰藉料および労働能力喪失による損害を評価する際の事情として考慮することとする。

(二)  通勤上余儀なくされた損害 七七万九二九二円

証人屋代真千子の証言および原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件事故当時立川市柴崎二―四―二〇所在の原告の妻の実家の二階に居住して港区赤坂二―四―五所在の日商岩井株式会社本社に通勤しており、この妻の実家への同居は、妻の両親が共に働いており原告の妻が老齢の祖父(昭和五〇年一一月現在八五歳)の世話をするのが最も都合がよかつたので原告らの結婚に当つてわざわざ二階を増築して同居するようになつたものであり、少くとも祖父の生存中は同居を続ける予定であつたが、本件受傷による左膝痛のため長時間のラツシユ時の通勤が苦痛になつたので、当初は携帯用の椅子を携行したり、朝早く出て始発駅の武蔵小金井駅で乗り換えるという通勤方法をとつていたけれども、このような通勤方法を永く続けることも困難であつたため、昭和四九年一一月末頃、勤務先の日商岩井株式会社が売り出した比較的交通の便のよい原告肩書地所在の三DKのマンシヨンを一四七五万円で購入して転居し、じ来同マンシヨンに居住して右会社に通勤していること、および、原告は妻の実家に居住していたときは家賃として月一万円を支払つていただけであつたが、現在は右マンシヨン購入資金として借り受けたローンの返済として毎年一〇〇万円以上を支払つていることが認められる。

右事実によると、原告の右マンシヨンの購入は一応本件受傷による左膝痛のためにやむをえずしたものであると認められるが、身体の不自由の補完のみを目的とする物の購入とは異つて原告自身のみならず原告の家族もこれに居住することによつて利益を享受していることになるので、右事実から直ちに原告に損害が発生しているということはできない。しかし、原告は本件事故がなければまだマンシヨンを購入する必要はなかつたのに、本件事故により勤務を継続してゆくためには多額のローンを利用してでも交通便利な場所に住居を求める必要が生じたので、前記のようにマンシヨンを購入し、そのために妻の実家に居住している間は支払う必要のなかつたローンの利子等の余分な出費を余儀なくされているのであるから、原告および原告の家族が享受している利益に相当する部分はこれを控除しなければならないとしても損害の発生を全く否定するのは相当でなく、少くとも従前の原告の住居事情からみて本件受傷のために転居を繰り上げざるをえなかつたものと認められ、かつ、原告の症状からみても相当と認められる期間については、右マンシヨンの賃料相当額から原告および原告の家族が享受している利益に相当する額と従前の賃料額を控除した額の損害を蒙つているものと認めるのが相当である。ところで、成立に争いのない甲第一五号証の一、証人屋代真千子の証言によつて成立を認めうる甲第一五号証の二および同証人の証言ならびに前示購入価格を併せ考えると原告の購入したマンシヨンの賃料相当額は五万円を下らないものと認められ、また、原告が妻の実家に同居するについては原告の妻が祖父の世話をすることが一つの動機となつていることは前示のとおりであり、証人屋代真千子の証言および原告本人尋問の結果によれば原告の妻には昭和五一年一一月現在二四歳で大学三年在学中の弟があること、および原告は妻の実家の隣家の人が他に土地を持つていていずれその方に転居する予定であつたので、そのときには隣家の家を譲つてもらうことにしていたことが認められ、これらの事実からすると原告の妻の実家への同居は永続的なものではなく、妻の祖父の死亡、弟の結婚等による事情の変更によつて原告が他に住居を求めなければならなくなることも予想され、妻の実家への同居の蓋然性が認められるのはせいぜい五年間程度であると考えられるので(右期間は前認定の原告の後遺症の内容および程度からみても相当であると考えられる。)、原告は前示賃料相当額五万円から原告および原告の家族が享受している利益に相当する分としてその二分の一を控除し、その残額から従前の賃料一万円を控除した額である一万五〇〇〇円に相当する損害を五年間にわたつて受け続けるものと認めるのが相当である。そこで、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右損害の額を現価に引き直すると七七万九二九二円(円未満切捨)となる。

(三)  後遺障害による逸失利益 二六三万九三三五円

成立に争いのない甲第一三、一四号証、証人浜名久仁子の証言および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故当時三二歳の男子で、高校卒業後茨城県警察、自衛隊、三菱銀行を経て昭和三九年七月日商岩井株式会社に入社し、本件事故当時は年間四二三万五七四六円の給与所得を得ていたこと、原告は右会社において当初通信課でテレツクス通信等の業務を担当し、次いで文書課に配置換えになつて社長印・社印の保管、マイクロフイルムの管理等の業務を担当するようになり、本件受傷後は重い荷物を運ぶのを避け、歩行時も左膝をかばつて一階でもエレベーターを利用するなどしているが、社内では杖は使用しておらず、また、身体障害者雇用促進法による届出のため会社の指示で身体障害者である旨会社に正式に申し出ているけれども、勤務条件では特別な待遇は受けないで通常の勤務条件で勤務を継続し、現在までのところ給与、人事考課等で特別の不利益は受けていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実によると、原告は前示後遺障害によつて収入の減少等の具体的な損害を受けているとはいえないが、長期的にみた場合勤務能率の低下によつて人事考課、昇給等で不利益を受ける可能性がないとはいえず、また、将来転職する場合に職業選択の幅が狭まることにもなるので、後遺障害による逸失利益を否定するのは相当でなく、これらの事情に前示後遺障害の内容および程度を併せ考えると、原告は右後遺障害によつて二〇年間にわたつて平均して五パーセント程度の労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。そこで、前示収入を基礎にライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右後遺障害による逸失利益の現価を計算すると二六三万九三三五円(円未満切捨)となる。

(四)  慰藉料 三〇〇万円

前認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容および程度、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛は三〇〇万円をもつて慰藉するのが相当である。

三  過失相殺の主張について

成立に争いのない乙第三ないし五号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いのない甲第一五号証の一ないし一六、証人河村三千雄の証言および原告本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場は赤坂見附方面から山王通り方面に東西方向に通じ西行き一方通行となつている幅九・三メートルの道路と一つ木通り方面から外堀り通り方面に南北方向に通じ南行き一方通行になつている幅七・二メートルないし六・二メートルの道路(いずれも歩車道の区別はない。)が交差する交通整理の行われていない交差点であり、赤坂見附方向から進行してくると交差点の手前に一時停止の標識があり、また、交差点近くの赤坂見附寄りには地下鉄赤坂見附駅の出入口があつて朝夕のラツシユ時には交差点附近は通勤客で混雑しており、本件事故当時も夕方のラツシユ時で地下鉄駅側に向つて右南北道路を横断する人波が続いていたこと、加害車運転手河村三千雄は加害車を運転し、赤坂見附方面から進行してきた本件交差点で左折しようとして交差点手前で一時停止し、右南北道路を南進する車両と山王通り側から赤坂見附側に横断する人波のとぎれるのを待つて発進し徐行状態で左折を開始したが、山王通り側から横断を開始しようとしている歩行者群に気をとられていたため、同方向に横断しあと少しで横断を終えようとしていた原告に気がつかず、自車前部左側を原告の左膝部に接触させたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実によると、加害車は徐行していたのであるから、原告が早期に加害車の進行を発見して避譲すれば事故の発生を避けえたであろうといえなくもないが、歩行者群の間隙をぬつて自動車を進行させるような状況で左折しようとしているのに歩行者に対する注意不十分のまま進行した右河村の過失内容に前示道路状況および事故態様を併せ考えると原告に過失相殺を必要とするほどの過失があつたということはできない。

よつて、被告の過失相殺の主張は採用しえない。

四  損害の填補

原告が自賠責保険から後遺障害に対する補償として五二万円を受領していることは当事者間に争いがないから、右受領額は前示損害額から控除すべきである。

なお、被告は右のほかに治療費として一九万七二一五円、休業補償として三三万一七三七円、その他の損害金として五万三〇〇〇円を支払つた旨主張し、右支払の事実は当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によると右支払額は本訴請求外の損害に対する弁済であることが明らかであるから、前示損害額に充当するのは相当でない。

五  弁護士費用 六〇万円

弁論の全趣旨によると、原告は被告が前示損害を任意に賠償しなかつたので、原告訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、相当額の費用および報酬を支払い、著しくは、支払いを約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六〇万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は被告に対し六四九万八六二七円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかである昭和五〇年七月一〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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